大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

広島高等裁判所松江支部 昭和37年(ネ)57号 判決

主文

原判決を取り消す。

被控訴人の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実

控訴人は、主文同旨の判決を求め、被控訴代理人は、「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述、証拠の提出援用認否は、被控訴代理人において、被控訴人が本件株券の権利を取得した日は買入委託完成の日である昭和三四年一二月一五日である旨附加陳述し、控訴人において、立証として当審証人伊藤精吉の証言を援用したほか、原判決の事実摘示と同一であるから、ここにこれを引用する。

理由

訴外島根証券株式会社(以下単に島根証券と称する)が証券の取引を業とする会社であること、同会社は昭和三四年一二月一五日訴外日本通運株式会社株式一、〇〇〇株(内訳、五〇〇株券Bほ第二六三〇六号一枚、五〇〇株券Bほ第二六三〇七号一枚)を買入れて保管中同三六年二月一七日破産宣告を受けたこと、その破産管財人である控訴人は右株券二枚を現に占有していること、はいずれも当事者間に争いのないところである。

原審並びに当審証人伊藤精吉の証言、同証言により成立を認める甲第一号証の二、三(但し、郵便官署作成部分の成立につき争いない)、成立に争いない乙第二、第三号証及び原審における被控訴本人尋問の結果を総合すると、島根証券は自己の名において委託者のため証券売買を業としていること、被控訴人は昭和三四年一〇月二一日島根証券に対し前記株式一、〇〇〇株及び訴外八幡製鉄株式会社株式の買入委託をなしその代金として金三一万円を預託したところ、島根証券は同年一二月一五日訴外伊藤銀証券株式会社から本件株式一、〇〇〇株を単価金一八七円で買入れたこと、右株式は記名株式であること、ところが当時訴外日本通運株式会社が増資の発表をしており同月二〇日までに名義書換手続のため株券を同会社に送付しなければ新株引受の権利を失う事情にあり、島根証券から被控訴人に本件株券を引渡し被控訴人名義で手続を執る余裕がなかつたところから、島根証券社長伊藤精吉は電話で被控訴人の諒解を得たうえ島根証券名義に本件株券の裏書をなし且つ名義書換手続を執つたこと、その後本件株券を被控訴人に裏書譲渡することを遅延するうち島根証券は破産宣告を受け本件株券は破産財団に組入られたものであること、がそれぞれ認め得べく他に右認定に反する証拠は存しない。

さて、自己の名を以て他人のために物品(有価証券を含む)の売買を業とする者は問屋である。問屋と委託者の間の関係においては代理に関する規定の準用があるので問屋のなした売買の効力は直接委託者に対して生じ(商法第五五二条第二項、民法第九九条)、委託者は問屋に対してその権利を主張できるけれども、本来問屋は当該売買より生ずる権利義務の主体であるから、委託者が第三者に対してその権利を主張するためには問屋からその権利の移転を受けなければならないものと解する。そして記名株式の譲渡は株券の裏書によるか又はいわゆる譲渡証書の交付に依るべきものとされている(商法第二〇五条第一項)ので、問屋が問屋契約に基き記名株式を買入た後破産した場合において、委託者はその破産宣告前に右方式による株式の譲渡を受けていない限り破産財団につき取戻権を行使し得ず、既に交付した資金について一般債権者として権利を行使し得るに過ぎないものと解する。

これを前認定の事実関係について検討すると、島根証券は問屋であり本件株券の買入は被控訴人との問屋契約に基いてなされたものであるところ、被控訴人は右株券について島根証券の破産宣告前に裏書又はいわゆる譲渡証書の交付による譲渡を受けていないものであるから、破産財団に対して取戻権を行使し得ないものといわなければならない。

そうすると、取戻権を前提とする被控訴人の本訴請求は失当であり理由がないからこれを棄却すべく、右と結論を異にする原判決は不当であるからこれを取り消し、民事訴訟法第三八六条第九六つ条第八九条に則り、主文のとおり判決する。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例